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他の診療科との連携を再発・進行がんの治療薬の開発など、医療技術が進んで、がんの治療そのものが進化しているいま、緩和ケアの重要性はますます高まっています。
再発・進行したがんと向き合う人が増えているからです。
そうした人たちに、質の高い緩和ケアが実践されるためには、一つの診療科が自分の科の患者さんを抱え込まず、他の診療科を巻き込んで、一人の患者さんに関われるような枠組みが必要です。
苦痛のある患者さんがいたら、どのようにして苦痛をとることができるのか、治療方針をどう修正していけばいいのか、複数の科で関わることが重要なのです。
しかし、診療科の縦割りの壁を越えるということは、異なる専門性を持つ他の医師への配慮などがあって、実際には難しい問題です(と多くの医療関係者が、口を揃えます)。
病院ぐるみで緩和ケアをめざしている癌研有明病院では、もともと「キャンサーボード」というオープンなカンファレンスが、定期的に開かれていました。
消化器、呼吸器など、診療科ごとに編成されている会議なのですが、そこにすべての診療科の、すべての立場の人が参加して意見を述べることが許されているのです。
また、緩和ケア科の二人のホスピスケア認定看護師は、各診療科のカンファレンスに出席して、苦痛を緩和するための基本の薬の使い方などについて、意見を述べたりするだけでなく、直接、各診療科に出向いて、患者さんに関わることを日常的に実践しています。
診療科の垣根を越えて、患者さんの治療方針の決定に関わる仕組みが、すでにできあがっているのです。
こうした土壌があるからこそ、病院ぐるみで再発・進行がん医療をやろう、緩和ケアに取り組もうということが、実践できるのです。
最近、緩和ケアを実践する専任の医師、精神症状をケアする医師、そして専任看護師の三人一組のチームを編成し、各診療科をめぐって、苦痛を抱えたままの患者さんに直接関わる「緩和ケアチーム」という仕組みを導入する医療機関が増えてきました。
専門病棟や科を持たなくても、実働チームをつくることで、緩和ケアを実践していこうというのです。
「緩和ケアチーム加算」という診療報酬上の優遇措置もあるため、こうした緩和ケアチームの導入をしている認定医療機関は、二○○七年二月現在で、少なくとも七五ほどにのぼっています。
(もちろん、認定されていなくても実質的に活動しているチームは、もっとあります。
)早めからの緩和ケアを徹底するためには、その核となる取り組みですが、もし、診療科の壁が存在して、科を超えて患者さんに関わることができなければ、「絵に描いた餅」となってしまいます。
こうした緩和ケアチームが院内で自由に活動でき、直接患者さんと関われることが、質の高い緩和ケアにとって、欠かせないでしょう。
もっといえば、院内の患者さんに緩和ケアが行き届いているかどうかを見れば、院内の風通しがよいかどうかがわかる、ともいえます。
あるいは、MDA病院のB氏がインタビューの中で発言していましたが、こうした緩和ケアチームの他の病棟の回診が、これまで医療現場で「課題だ」と認識されつつ今後、緩和ケアチームが精力的に関わることによって、「苦痛の早期発見・早期介入」が実践されるようになれば、少なくとも、がんといま向き合っている患者にとって、大きな不安が解消されると期待されます。
いずれにせよ、患者にとって歓迎すべき変化であることは間違いありません。
財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が二○○六年に全国の二○歳から八九歳までの患者一○七八人を対象に行った「終末期医療に関する意識調査」によれば、医師に「死期が近い」と知らされたときに、心配だったり不安だったりするのは、「病気が悪化するにつれて、痛みや苦しみがあるのではないか」ということであると答えた人がもっとも多く、六六・七%、三人に二人にのぼっていました。
ついで、「家族・友人との別れ」四五・三%、「残された家族が精神的に立ち直れるか」四三・八%、「自分のやりたいことがやれずじまいになること、やり残したことがあること」四一・一%、などとなっており、死そのものが与える不安や心配ごと以上に、これから先にある苦痛や苦しみへの不安が大きいという結果が数字に表れていました。
も長年突き崩されずに存在した「診療科の壁」を突破する、一つのきっかけになるかも知れままた、さらに進んだ緩和ケアにおいては、苦痛が出ないための緩和ケア、いわば「苦痛の予防的緩和ケア」を望みたいものです。
たとえば骨転移がわかったら、たとえ本人から症状の訴えがなくてもすぐに骨折予防薬、骨転移に伴う痛みの予防薬が選択肢として示される、そうした医療が進んでいけば、たとえがん細胞が身体のなかに存在していても、ふつうに暮らせます。
がんを抱えることになっても「苦痛がない」ことが、どんなに患者本人、そしてその家族の負担を減らすことになるか……。
患者さん、ご家族に代わって、訴えたいと思います。
再発・進行がん医療への挑戦をめざす、がん専門病院を舞台にした一年間にわたる取材の間に、「早い段階から関わる緩和ケア」というWHOの「斜め線」の概念が強調される場面も多くなってきました。
実際に、病院での取り組みは、日々進化しています。
癌研有明病院では、診療科の単独のカンファレンスに、緩和ケア科の看護師が定期的に参加し、医師からの依頼を受けて直接患者に関わるようになりました。
予約以外の患者さんについても緊急性の高い場合には、電子カルテやPHSを通じて他の診療科の医師や看護師から緩和ケア科に連絡が入り、すぐに緩和ケアチームや緩和ケア外来で対応することが可能になっています。
さらに、二○○七年に入って、緩和ケア科ともっとも連携の多い化学療法科に、緩和ケア科の窓口となる担当医師「リンク・ドクター」を選定する、新しいシステムが導入されました。
この化学療法科の医師を中心に、抗がん剤治療とその副作用などをコントロールする緩和ケアとのバランスをとっていこうという試みです。
患者さんをQOLの面から支える体制が、より充実してきているのです。
一方、患者の側にも、変化がみられるようになってきました。
緩和ケア外来には、「早期からの緩和ケア」を知って、自ら連絡をとってくる患者も少しずつ増えています。
これまで二○年近くにわたって「終末期限定」でしか関わりを持たない医療のように誤解されていたことを考えれば、急速にこの考え方が、再発・進行がんの患者さん、ご家族に届きやすいところまで来たような気がします。
しかしながら、まだ数多くの実際の医療現場では、これからもしばらくの間、この本の中で紹介してきた方たちが遭遇したようなエピソードが繰り返されるかも知れません。
「がん医療の均霜化」、すなわち、どこにいても同じように質の吉向いがん医療が受けられる体制づくりは、がん対策基本法の一つの柱になっていますが、「早期からの緩和ケア」の具体的なイメージがわかないために、医療現場でもどう取り組んでいったらいいのかわからず、混乱する恐れがあります。
医療を受ける患者さんやその家族の側が、緩和ケアの介入に拒否反応を示す、という事態も、十分に予想されます。
在宅医療を喜んで受けられたOさんも、当初、鎮痛薬のモルヒネの使用を勧められても抵抗感を持っておられたことを思い出して下さい。
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